アジア時間の木曜早朝、原油市場は再び神経質な動きを見せた。米軍がイランの軍事目標に新たな攻撃を加えたとの一報が駆け巡り、直近の和平協議がさらなるエスカレーションに道を譲るのではないかという懸念が一気に再燃したのだ。執筆時点でWTI先物は2.06%高の90.51ドル、ブレント原油は2.17%高の96.34ドルを付けている。今週初めには、ホルムズ海峡の通航正常化をもたらす合意への期待から両指標とも7%以上急落していただけに、市場のセンチメントは極めて不安定な状態にある。

この緊張状態は、米中央軍の当局者が「防御的措置」としてイラン南部に攻撃を加え、4機の攻撃ドローンを撃墜した(5機目を発射寸前だった地上管制施設も標的となった)という報告によって決定的なものとなった。さらに火に油を注いだのが、トランプ大統領の強硬な姿勢である。「素晴らしい取引でなければ、我々は手を結ばない」。彼は制裁緩和や資金凍結の解除に関する憶測を一蹴し、条件を満たさなければ「息の根を止める」といつものように凄んでみせた。テヘラン内部でも超強硬派が、ウラン濃縮活動における譲歩やワシントンとの妥協を模索する交渉担当者を公然と非難しており、英フィナンシャル・タイムズの報道が示す通り、イランメディアが仄めかしていた停戦延長のシナリオは急速に色褪せつつある。これに米国石油協会(API)が発表した米国の原油在庫280万バレル減少(6週連続のマイナス、公式なEIAデータはメモリアルデーの影響で木曜遅くに発表予定)という強気なデータが重なり、現物市場の逼迫感がいや増している状況だ。停戦自体はなんとか維持され協議も続いているが、ホルムズ海峡の安全を担保する長期的な解決策が見つかるまでは、価格急騰のリスクは常に市場に影を落とし続けるだろう。

中東情勢の泥沼化とそれに伴う価格の乱高下は、化石燃料に依存する経済の構造的なアキレス腱を常に突きつけてくる。こうしたエネルギーの価格変動に対する「防波堤」として、欧州の一部では北極海での新たな石油・ガス掘削を推進しようとする動きがある。しかし、この安易な回帰に対して、金融機関、労働組合、気候学者からなる北欧の連合体は水曜日、欧州委員会に対して強い警告を発した。現在、EUは北極圏に関する地域戦略の見直しを進めており、メディアで報じられた掘削容認への姿勢軟化を危惧した同連合は、5人の欧州委員宛てに送付した公開書簡の中で、2021年以降維持してきた「新たな掘削の世界的禁止」という既存の方針を絶対に後退させるべきではないと釘を刺した。

彼らが懸念しているのは、単に環境問題だけではない。ロシアの領土や北極海航路に近接し、モスクワがしばしば核演習を誇示するバレンツ海周辺の地政学的状況は劇的に変化している。仮にノルウェー領北極圏から供給される石油やガスが欧州のエネルギー安全保障の生命線になれば、そのインフラ自体がハイブリッド戦やサボタージュの格好の標的となり、逆にEUの脆弱性を露呈させることになりかねない。元ドイツ副首相兼経済・気候保護相のロベルト・ハベックや、元デンマーク気候・エネルギー相のコニー・ヘデゴーらを含む主に北半球出身の127名の署名者たちは、世界平均の4倍の速さで温暖化が進む北極圏での開発拡大が、原油流出のリスクを高め、世界的に重要な海洋生態系に取り返しのつかない「制御不能な脅威」をもたらす点も強く指摘している。

そもそも、北極海の開発をエネルギー危機の特効薬と見なすこと自体が経済的な錯覚だと言える。ノルウェー大陸棚のプロジェクトは開発に約13年を要する。つまり、今日新たな油田開発が承認されたとしても、本格的な生産稼働は2040年頃までズレ込む計算になる。さらに独立系調査会社ライスタッド・エナジーの市場評価によれば、バレンツ海で経済的に採掘可能な資源量は、ノルウェー政府の公式予測を実に78%も下回っているというから驚きだ。加えて、液化天然ガス(LNG)の新規商業生産を立ち上げるには、既存のインフラ容量が数十年先まで完全に埋まっているため、EUは新たに20年から25年もの長期ガス購入契約を結ばざるを得なくなる。これは、2050年のネットゼロ目標を掲げる欧州を、期限を大きく超えて化石燃料依存へと縛り付ける「罠」に他ならない。

ホルムズ海峡の緊張に怯え、遠く離れた脆弱な北極の海に新たな油井を掘ることで安心を買おうとするのは、もはや持続可能な選択肢ではない。北欧連合が欧州委員会に強く促しているように、EUの長期的なエネルギー安全保障を強化する最も有効な手段は、輸入化石燃料への依存を深めることではなく、国内の電化を推し進め、送電網の効率化と再生可能エネルギーの導入を急ピッチで進めることだ。中東の砂漠で交わされる銃火と、北極の氷海を巡る議論は一見別々の問題に思えるが、実は「化石燃料というボラティリティの波からいかに脱却するか」という共通の課題を我々に突きつけている。