洋上風力発電への期待が高まる中、日本では導入拡大に向けた取り組みが進められています。2010年に日本風力発電協会が示したロードマップでは、2030年代には陸上での風力発電の伸びが鈍化し、洋上での導入が本格化すると予想されていました。現在、そのビジョンはほぼ現実となりつつあります。
陸上では、風車の建設計画が希少な鳥類の生息域と重なる、景観が損なわれるといった理由から、住民や自治体による反対運動が起き、計画が撤回されるケースもあります。限られた陸上の建設適地に代わり、洋上へのシフトが進んでいるのです。
政府は2019年に施行された再エネ海域利用法に基づき、設備設置海域を拡大し、2040年までに最大4500万kW、原発45基分に相当する洋上風力発電の導入を目指しています。2023年から2024年にかけては、商業運転が始まる節目の年となりました。北海道・石狩湾新港では14基の風車が稼働を開始し、秋田県の秋田港や能代港でもすでに稼働が始まっています。
こうした導入拡大の背景で、重要となるのが「環境への配慮」です。環境省が調査を担当することになっていますが、実際には日本には必要な基礎的な調査データが大きく不足しています。
国際環境NGO「バードライフ・インターナショナル」による報告によれば、イギリスでは33年にわたり政府主導で海鳥の観測が行われており、月に1度以上の頻度で船舶による調査が実施されています。オランダ、ドイツ、フィンランドなどでも同様の長期観測が続けられており、各国は豊富な海鳥分布データを蓄積しています。
一方、日本では2018年から2020年にかけて、環境省が風力発電による鳥類への影響を把握するための「センシティビティマップ」作成のために一部地域で短期調査を実施しましたが、調査期間や規模は欧州諸国と比べて大幅に劣っています。
なぜ欧州ではこうした広域かつ長期間の調査が実現しているのでしょうか。イギリスでは1970年代、海底油田の開発をきっかけに環境への影響を把握する必要が生じ、急遽モニタリング体制が構築されました。EU圏では、各国の法律に加えて、鳥類保護指令など環境保護を重視したEU法の規制もあり、調査が義務付けられている側面もあります。
特にイギリスでは、海面や海底は王室が所有・管理しているため、企業が洋上風車を建設する際には王室から海域を借りる必要があります。その際、王室は事業と環境のバランスをとるため、どの海域をどのように利用させるかを判断するために、事前に詳細な調査とデータ収集を求めてきました。
さらに、欧州諸国では自然環境や科学への市民の理解が深く、あらゆる産業の進展においても自然環境への影響を科学的に検討する姿勢が根付いています。
洋上風力発電の導入を本格化させようとする日本にとって、こうした「基礎データの不足」は大きな課題です。安定した導入と環境保全の両立を図るには、欧州のような長期的かつ体系的な海鳥モニタリング体制の整備が急務と言えるでしょう。