「物言う株主」として知られる米投資ファンドのスターボード・バリューが、製薬大手ファイザーの株式約10億ドル(約1500億円)相当を取得したことが明らかになった。スターボードは、新型コロナウイルスワクチンの成功から一転して業績不振に苦しむファイザーに対し、経営改善を迫る構えだ。

経営陣への圧力と元幹部の支持

複数の関係者が明らかにしたところによると、スターボードはすでにファイザー経営陣と対話を開始している。さらに、前最高経営責任者(CEO)のイアン・リード氏と前最高財務責任者(CFO)のフランク・ダメリオ氏にも接触しており、両氏はスターボードの提案を支持する意向を示しているという。

リード氏は2019年に現CEOのアルバート・ブーラ氏にその座を譲るまでファイザーを率い、ダメリオ氏は2021年までCFOを務めた。経験豊富な元幹部がスターボード側につく可能性は、ファイザー経営陣にとって大きな圧力となるだろう。

パンデミック後の失速と株価低迷

ファイザーは新型コロナワクチンの開発で世界をリードし、一時は大きな成功を収めた。しかし、パンデミックが収束に向かうにつれてワクチン需要は激減し、業績は急速に悪化。鳴り物入りで発売したRSウイルス(RSV)ワクチンの売上は期待を大きく下回り、開発中だった肥満症治療薬の臨床試験データも投資家を失望させた。

こうした状況を受け、同社の株価はブーラ氏がCEOに就任した2019年時点の1株41ドル近辺から、現在は28ドル台まで大幅に下落しており、2021年の高値からは50%以上低い水準で推移している。

迫る「パテントクリフ」と買収戦略への批判

ファイザーが直面している課題は、足元の業績不振だけではない。2027年から2028年にかけて、がん治療薬「イブランス」や心血管疾患治療薬「エリキュース」など、主力製品の特許が相次いで失効する「パテントクリフ(特許の崖)」という大きな問題が控えている。特許が切れれば安価な後発医薬品が出回り、収益が大幅に減少することは避けられない。

ブーラCEOはこの事態を乗り切るため、大型買収を繰り返して新たな収益源を確保する戦略を進めている。最近では、自社開発の肥満症治療薬が失敗に終わった後、その穴を埋めるためにメッツェラ社を高額で買収する契約を結んだ。しかし、一部の投資家からは、これらの買収戦略が必ずしも成果に結びついていないとして批判の声も上がっている。

投資家から見たファイザーの魅力とリスク

現在のファイザー株は6%を超える高い配当利回りが魅力的に映るかもしれない。しかし、配当性向(利益のうち配当に回す割合)は約90%と非常に高く、今後の業績次第では減配のリスクも無視できない。実際、同社は2009年に大型買収を行った際、配当を引き下げた過去がある。

物言う株主の登場により、ファイザーが経営改革を迫られることは必至の情勢だ。同社が迫り来るパテントクリフを乗り越え、持続的な成長軌道に戻ることができるのか、その経営手腕が厳しく問われている。