日本製鉄は2025年3月期に過去最高となる業績を記録したにもかかわらず、市場の反応は芳しくない。2025年5月10日に発表された決算直後、同社の株価は急落し、終値は2825円と前日比で269円(8.7%)下落。その後も回復の兆しは見られず、日経平均株価が上昇する中で、日本製鉄の株価は反対に約5%下落している。
2025年3月期の実績は、営業利益が8836億円(前期比5.1%増)、純利益が6940億円(同8.9%増)と、いずれも過去最高を更新。鉄鋼業界における厳しい事業環境を乗り越えての成果であった。
それにもかかわらず、2026年3月期の業績見通しとして発表された数字は、事業利益が29.1%減の6500億円、純利益が46.7%減の3700億円と、大幅な減益予想となっている。さらに、年間配当金も180円から140円に引き下げる計画が示され、市場はこれに強く反応した。
副社長の森高弘氏は、配当が据え置きになると見ていた投資家が多かったことに触れ、「140円でも高水準だということを説明する余裕がなかった」と語った。また、株価の停滞については「企業としての実力を高めていくことで、いずれ理解されるはずだ」と前向きな姿勢を示している。
「実力ベース」では依然として好調な見通し
表面的には減益の見通しとなっているが、同社はあくまで「実力ベースでは3期連続で最高益を見込んでいる」との認識を示している。決算発表の場で、社長の橋本英二氏は「今期の収益が計画通りであれば、構造改革は完了と宣言したい」と自信をにじませた。
では、「減益なのに実力ベースでは最高益」とは、どういう意味なのか。その前提として、2025年3月期の環境を振り返る必要がある。
この期は、決して追い風の中で得られた業績ではなかった。欧米での金融引き締めの影響により世界経済は減速し、鉄鋼需要も振るわなかった。特に中国では、不動産市場の悪化やロックダウンの影響で国内需要が落ち込み、その結果、余剰鋼材が海外市場に流出。世界的に鋼材価格は低下していた。
日本製鉄の粗鋼生産量は3425万トンで、前期比11.5%の減少。これは、コロナ禍で最終赤字となった2021年3月期(3300万トン)よりは上回っていたが、2012年の合併当初と比べると約25%の減少となっている。
利益確保の背景にある要因
このような逆風の中で、最高益を確保できた背景には複数の要因があると考えられている。コスト削減の徹底、新製品の開発、海外市場への戦略的対応、そして事業ポートフォリオの再編が挙げられる。また、エネルギー価格の変動や為替レートの影響を最小限に抑えた経営手腕も評価されている。
それでもなお、株価は低迷し、PBR(株価純資産倍率)は0.65倍という割安水準にとどまっている。これは投資家の間に根強く残る「先行き不透明感」が背景にあるとみられ、持続的な成長の確信が得られていない現状を映し出している。