ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)がスタジオとストリーミング部門を一つの会社に、リニアテレビネットワーク部門を別企業に分割する方針を発表し、ハリウッドでは早くも次期経営陣を巡る注目が集まっています。
WBDの最高経営責任者(CEO)、デヴィッド・ザスラヴは、2022年に約430億ドルのディスカバリーとワーナーメディアの合併を主導し、同社を率いてきました。分割後は「スタジオ&ストリーマー(S&S)」事業のCEOに就任する予定です。一方、同社の最高財務責任者(CFO)であるグンナー・ヴィーデンフェルスは、かつてディスカバリーでもCFOを務めた経歴を持ち、金融分野での豊富な実績を背景に、新たに「グローバル・ネットワーク」部門のCEOに就く見通しです。
現在、今回の分割は2026年後半までに正式に完了する見通しで、早くも関係者の間では「最終的に誰が幹部席に座るのか」という関心が高まっています。
アナリストとの電話会見でザスラヴ氏は、「この分割は、それぞれの会社が単独よりも独立してより迅速に成長できるという我々の信念を踏まえたもの」と語りました。一方、ヴィーデンフェルス氏は「分割完了と同時に両社とも、ディールに関して『束縛のない自由な状態』となる」と述べ、合併後すぐに事業買収や再編が可能になるとの見通しを示しています。
金融アナリストのダグ・クルーツ氏は「彼(ヴィーデンフェルス氏)は財務面で高い評価を受けているだけに、ネットワーク部門の新社長就任は、財務効率の強化や戦略的再編への布石とも捉えられる」とコメントしています。ゴールドマン・サックスのマイケル・モリス氏もこの人事を「トップ・グンナー」と評し、冗談交じりに注目を集めました。
ヴィーデンフェルス氏はドイツ出身で、ディスカバリー以前はドイツのテレビ局ProSiebenSat.1やハンブルクのコンサルティング会社マッキンゼーでも財務を担っていました。ポップカルチャー界隈ではザスラヴ氏ほど悪役的存在にはならなかったものの、2022年には「『バットガール』映画の取り消しは税制上の利点を得るために必要だった」とする発言が、クリエイターの間で論争を呼びました。当時彼は、「メディアはメディアの話をしたがるものなんでしょうね」と肩をすくめたことも記憶されています。
こうしたCFOからCEOへの昇格は珍しく、同じメディア分野のコムキャストでは、NBCユニバーサルの分社化に向けて、豊富な運営・番組制作経験を持つマーク・ラザルスがCEO候補となっています。CFO出身者がメディア企業のトップに就く例はチャーター・コミュニケーションズのクリス・ウィンフリーなどごく一部に限られており、ハリウッドでは実績が問われる昇進ルートと言えるでしょう。
一方、S&S部門にはHBOやHBO Max、ワーナー・ブラザースといった名門資産が集積しており、こちらも非常に注目度が高いポジションです。ザスラヴ氏は映画界の大物になるとの野心を重ね、故ロバート・エヴァンスがかつて住んでいたロサンゼルスの邸宅を購入しましたが、その一方で自ら不必要と思える決定も下しています。完成済みの映画『コヨーテ vs. アクメ』の公開中止を指示し、世論と業界から強い反発を招いた後、最終的には作品が売却されることになりました。また、ターンナークラシック・ムービーズ(TCM)の存在も危機に瀕しましたが、スティーヴン・スピルバーグやマーティン・スコセッシらA級監督たちの説得により存続が決まりました。さらに、2023年のカンヌ映画祭期間中にハリウッド脚本家ストライキを背景に、ザスラヴ氏と『ヴァニティ・フェア』のグレイドン・カーターが主催した大規模なパーティーも話題となり、現地には厳重な警備が敷かれました。