電気自動車(EV)大手のテスラは火曜日、販売不振からの回復を目指し、主力車種である「モデルY」と「モデル3」の新たな廉価版を発表しました。しかし、この動きは投資家には好感されず、同社の株価は下落しました。厳しい競争環境と消費者の購買意欲の低下に直面する中、テスラの新たな価格戦略は市場の期待を十分に集めるには至らなかったようです。

新型廉価版モデルの概要と価格設定

今回発表された新型「モデルY」は、内装を簡素化し、価格を4万ドル弱に設定しています。また、より小型の「モデル3」も3万7000ドル以下という新価格で提供されます。ニューヨーク州の住民が州の補助金を利用する場合、モデル3の実質的な購入価格は3万5000ドルを下回ります。

これらの「スタンダード」モデルは、従来のモデルと比較していくつかの仕様が変更されています。例えば、新型モデルYの航続距離は321マイル(約517km)に短縮され、オーディオスピーカーの数も削減されています。内装はマイクロスエードではなくファブリック製となり、パノラマガラスルーフや後部座席のタッチスクリーンも搭載されていません。モデル3も同様に、航続距離やアンビエントライトなどの機能が簡略化されています。

テスラは長年、より幅広い顧客層にアピールするため、2万5000ドルの低価格車の投入を約束してきましたが、今回発表されたモデルの価格は、その目標を依然として大きく上回っています。

米国市場の冷ややかな反応とアナリストの見解

この発表に対する株式市場の反応は、新型モデルが販売回復の起爆剤になるとは期待されていないことを示唆しています。発表への期待感から前日には5%以上上昇していたテスラの株価は、火曜日の取引で4.5%下落し、443.09ドルで取引を終えました。

自動車情報サイト「Edmunds」のアナリスト、イヴァン・ドゥルーリー氏は、「投資家が求めていたのは、既存製品の焼き直しではなく、全く新しい何かでした。この新型モデルが、テスラが望む水準まで販売を回復させるとは考えにくいです」と述べ、市場の失望感を代弁しました。

テスラは現在、旧態依然とした製品ラインナップ、フォードの「マスタング マッハE」やシボレーの「エクイノックスEV」、ヒョンデの「アイオニック5」といった競合車種との厳しい競争、そしてイーロン・マスクCEOへの反発を背景とした不買運動など、複数の課題に直面しています。さらに、米国連邦政府による7,500ドルのEV税額控除が最近失効したことも、今後数ヶ月の消費者の買い控えにつながると広く予想されています。

中国の消費者からは「乞食版」との厳しい声も

一方、世界最大のEV市場である中国でも、この新しい廉価版モデルに対する評価は分かれています。中国のSNS「微博(ウェイボー)」では、一部のユーザーから厳しい意見が寄せられました。あるユーザーは「テスラのモデルY乞食版は23万元(約4万ドル)。君は買うか?」と投稿し、多くの共感を集めました。

他のユーザーからは、価格競争力で中国の国内メーカーに劣るとの指摘が相次いでいます。「同じ価格なら、国内メーカー製でもっと多くの選択肢がある」というコメントや、「あと1万元(約20万円)足せば、理想汽車のLi i6が買える。そっちの方が得じゃないか?」と、中国の人気EVブランドと比較する声も上がりました。

もちろん、肯定的な意見も存在します。「興味がないと言う人は多いだろうが、結局はたくさん売れるだろう」といった販売好調を予測する声や、「本当に欲しいけど、高くて手が出ない」といったコメントも見られました。

激化する中国市場での価格競争とテスラの苦戦

現在の中国EV市場では、テスラを含む100社以上の自動車メーカーが熾烈な価格競争を繰り広げています。テスラの最大のライバルであるBYDは、積極的な価格引き下げ戦略でシェアを拡大しており、テスラも昨年、主要モデルの価格を最大1万4000元(約28万円)引き下げています。

しかし、こうした価格競争はテスラの収益性を圧迫しています。中国乗用車協会のデータによると、2025年第2四半期のテスラの中国での販売台数は12万9000台で、前年同期比で約12%減少しました。

ある微博ユーザーは、テスラの現状について次のように分析しています。「彼らは新デザインや新車種を開発する代わりに、コスト削減に走っている。今日のテスラは、我々がかつて知っていたテスラではない。研究開発チームを中国に移すべきだ。中国の方がEV開発に適した環境であり、米国よりもずっと効率的だ」と投稿し、テスラの戦略に対する深い失望感を示しました。